こんにちは。
前回は「ピアノの録音・撮影が増えてきたお話」という事で、どんな経緯でどんな流れで録音・撮影しているかというお話をしました。
今回は「ピアノの音をきれいに収録したいんだけど、具体的にどうやって収録したらいいの?」という事を、もっと掘り下げてお話します。
これまで「録音なんてした事がない」といった方でも理解できるよう、できるだけ分かりやすく説明していきます。
ピアノの録音で気を付けること
ものすごく基本的な事になりますが、録音で気を付けなければいけない事は、まず第1に「音割れしないこと」です。
次いで「可能な限り大きな音で録音すること」も大切です。この2点は大前提です。
そして、録音したデータの利用用途にもよって分かれますが、繊細な音楽表現が評価されるようなクラシックの演奏であれば「録音レベル(音量)の自動調整をしないこと」です。
ピアノに限らず、どんな楽器を録音する場合でも同じです。
そして、これらは録音に利用する機材の「録音レベル(音量)の設定」で全て決まります。
録音するための機材はいろいろありますが、どのような機材で録音する場合であっても、同じような設定が必要になります。
後から編集ができるのであれば難易度は下がりますが、特にコンクール等で提出する場合、原則として音声の加工はNGですので、録音前の機材の設定は入念に行う必要があります。
今回はクラシック演奏の録音をターゲットにしていますので、フィルターやイコライザー等を使って音を調整する事は行いません。
※後から編集する事が前提であれば、最近は32bit Floatで収録できるレコーダーもありますので活用してもいいと思います。かなりマニアックな話になってしまいますので今回は割愛します。(機会があれば別途記事にします。)
録音レベルの設定が大切な理由
音割れ
まずは「音割れ」について。
経験のある方も多いと思いますが、録音したものを再生中に、音量が大きい箇所で「バリバリ」といったノイズが入る事があります。これを一般的に音割れと言います。
これは空気中を伝わってくるアナログの音をデジタルの音声データとして記録する際に、音量が音声データの許容範囲を超えてしまった場合に起こります。
データの許容範囲を超えてしまった分は捨てられてしまっているので、どうやっても音割れは修復できません。後から音量を下げても音割れしたまま音量が下がります。
したがって、音割れしないレベルまで「録音レベル」を下げる必要があります。
スマートフォンでの撮影の場合、最初から入っているカメラアプリ等では録音レベルの設定ができない機種も多いです。その場合は録音レベルの設定できるアプリや、外部マイクを利用する必要が出てきます。
大きな音で録音する事
次に「大きな音で録音する事」について。
前述の「音割れ」しないようにする場合、安全を見て小さめの音量で録音する事になります。
しかし、録音レベルが小さくなりすぎると弊害が出てきます。
録音される音には、マイクやレコーダー等の電気機器が発する「サー」というノイズが少なからず含まれます。スマートフォンなんかは精密機器の塊なので、ノイズが多い傾向があります。S/N比が高い機材を適切にセッティングすればノイズは軽減できますが、ゼロにはできません。
とは言え、録音レベルが適切に設定されていて、演奏の音量が大きければ、相対的にノイズは小さくなり、気にする程では無いはずです。
録音レベルが小さい場合は、再生時にまずボリュームを上げる事になると思います。この時にノイズの音量も大きくなります。そして、録音レベルが小さくなればなるほどボリュームを大きく上げる必要があり、どんどんノイズも大きくなってきます。
すると、演奏の音量に対してノイズが大きめに聞こえてきてしまい、極端なケースでは、細かい音楽表現がノイズによって聞こえなくなってしまう場合もあります。
後から編集で音量を上げようとしても、ノイズも一緒に大きくなってしまいます。
録音レベル(音量)の自動調整
そして「録音レベル(音量)の自動調整」について。
スマートフォンやレコーダー、ビデオカメラ等で録音する場合、録音される音量(録音レベル)が自動調整されるものがあります。コンプレッサーなんかもこれにあたります。
これは、人の声等を聴き取りやすいように、小さな音は大きめに、逆に大きな音は小さめに録音して、ある程度一定の音量で自動調整しながら録音してくれる機能です。
機材によっては小さい音はそのままで、大きい音だけ小さめになる場合もあります。
日常の記録や会話等の録音では重宝する機能ですし、音割れもある程度防いでくれる便利な機能ですが、楽器演奏の録音おいては、せっかくの繊細な音楽表現を台無しにしてしまいます。
録音された演奏を聴いて「抑揚が感じられない」というような場合は、だいたいこの機能が働いています。
録音データの利用用途によってはこれらの設定が有効な場合もありますが、クラシック演奏では録音レベル(音量)の自動調整はやめ、コンプレッサー等もかからないようにしておきましょう。
録音レベル(音量)の設定方法
録音レベルを設定する場合、このようなレベルメーターを確認しながら設定します。
レベルメーターには数字が書いてあり、音量によってリアルタイムにバーが伸び縮みするものが一般的です。機材の種類によって見た目(デザイン)は違いますが、メーターが横になっているか縦になっているかの違いくらいです。
このメーターで、バーが数字が0の場所(0db)を超えると音割れします。
したがって、0dbを超えない程度に、できるだけ大きな録音レベルを設定する事になります。
当然使う機材によって設定は変わりますし、同じ機材であっても演奏する場所の響きや、マイクの場所・向きによっても設定は変わってきます。
何度か本番のつもりで演奏・録音をしてみて、録音レベルを設定できればベストです。しかし、特に自宅以外で録音する場合は時間も限られていて、繰り返し演奏する事によって疲れてしまい「いざ本録音!」という時にはもう体力が残っていない状態となってしまってはどうにもなりません。
したがって、一番音量の大きい箇所を何度か演奏してみて、ベストな録音レベルを探る事が一般的です。
録音レベル(音量)の設定で気を付けること
ここで気をつけなければいけない点を挙げておきます。(よく失敗するパターンです)
楽器の出す音量の特性
楽器の出す音は、基本的に音の立ち上がり(アタック)の音量が大きく、持続音は小さくなっていきます。そして、単音よりも音が重なった場合の方が音量が大きくなります。
何を当たり前の事を、と思うかもしれませんが、意外とこの事を意識できずに録音し、音割れしてしまうケースがあるのです。
録音する曲の中で「一番盛り上がって音量が大きい場所」だと思って演奏し、録音レベルをバッチリ調整した(つもり)とします。しかし、実際は曲の別の場所の方がもっと大きい音が出ていたというケースが割とあります。
ピアノは、音の立ち上がりのほんの一瞬が最大レベルです。鍵盤を押したときにハンマーがピアノの弦を叩く瞬間です。したがって、大きな音が連続するよりも大きな音が同時に鳴る(同時に複数のハンマーがピアノの弦を叩く)方が大きな音になります。当然両方の要素が重なるとさらに大きな音になります。
人間の耳はよくできていて、ものすごく大きい音でも普通に聞き取れてしまいます。そして曲の雰囲気が一番盛り上がった場所が一番大きい音だと思ってしまいがちです。
ですので、一度冷静に楽譜を確認し、できるだけ大きな音が同時に重なる箇所で録音レベルを調整するようにしましょう。
演奏ごとのバラつき
人間が演奏しますので、音量は演奏ごとにバラつきがあります。
録音レベルの調整で完璧に調整できたと思って本番収録したら、演奏に気合が入って事前に録音レベルを調整した時よりも音量が大きくなる事がかなりの確率であります。
私が録音する場合は、少なくとも-3db、心配な時は-6dbの余裕を持って調整しています。
機材別 録音レベルの設定方法
では、機材別にどうやって録音レベルを設定していったらいいのか具体的に見ていきましょう。
スマートフォン (iPhone / Android) の場合
私の知る限り、iPhoneやAndroid等のスマートフォンでは、標準のアプリで録音レベルを調整できる機種はあまりありません。
iPhoneではOS自体で録音レベルの調整ができないようです。Androidではメーカーや機種によって設定可否があるようです。
そもそもスマートフォン内臓マイクでは高音質は期待できませんので、外付けのマイクを用意した方が良いと思います。
どんなマイクが良いかは別で紹介しようと思いますが、ひとまずおすすめは、マイクに対応したアプリが用意されていて、録音レベルが調整できるタイプです。
しかしながら、そういったマイクはある程度高価になってしまいますので、動画目的でなく演奏の録音のみが目的の場合は、高音質のマイク付きの専用レコーダーの方をおすすめします。
マイク付き音声レコーダーの場合
どんな機種であっても、たいていは録音レベルの調整はできるようになっています。
私の利用しているOLYMPUSのLS-11(だいぶ古い機種ですので現在は販売されておりません)は、横に[REC LEVEL]のダイヤルがあり、そこで調整ができるようになっています。
同じOLYMPUSで後継機にあたるのは「LS-P4」です。この機種の場合はメニューの「録音設定」から「録音レベル」を「マニュアル」に設定すると、録音レベルを30段階から調整できるようになっています。
他にもコスパのいいレコーダーは探せばいろいろとありますので、検討してみるといいと思います。
また、たいていの機種には「リミッター」機能がついています。この「リミッター」は、全体の録音レベルは変えずに、音割れするような大きな音が発生した場合のみ極力音割れしないように調整してくれる機能です。
音割れしない範囲で録音レベルを設定するのが原則ですが、場合によっては保険として「リミッター」を有効にしておくのも手です。
ビデオカメラ(ハンディカム)の場合
家庭用ビデオカメラでも、音声レコーダーと同様に録音レベルの調整ができる機種が多いです。
機種によっては音声もそこそこ高音質だったりしますが、オプション品の専用マイクを買って取り付けるのもいいと思います。
私の環境では、以前PanasonicのHC-W850Mに別売りのVW-VMS10を装着して使っていました。
このビデオカメラでも、メニューの「撮影設定」から「マイクレベル」を14段階で設定できるようになっています。また、「リミッター」として[AGC](オートゲインコントロール)のON/OFFが設定できます。
デジタル一眼カメラの場合
画質がいいので最近は動画撮影にデジタル一眼カメラを利用するケースが増えてきています。
ただ、内臓マイクでは演奏を録音するには心許なく、機種によっては外付けマイクも付けられないケースもあるため注意が必要です。
外付けマイクが付けられるようであれば、前述のビデオカメラ(ハンディカム)と同じように設定できます。
パソコンを利用する場合
これまで説明してきた、機材単独(+外付けマイク)の場合と比較して、機材の組み合わせも多種多様となり、非常に多くの設定例があります。これが正解!というようなものはありません。
パソコンを利用する場合は基本的にオーディオインターフェースを使うことになります。
具体的な設定例については別途記事にしようと思いますので、今回は省略します。
より高音質で録音するために
ここまで録音レベルの設定の話をしてきましたが、これらは録音を「失敗しない」ために必ず必要な内容になります。
さらに上を目指し、より良い録音をする為には「マイクのセッティング」も非常に重要になります。
適切なマイクセッティングをし、適切な録音レベルを調整する事により、より高音質な録音となります。
次回はこの「マイクセッティング」の話をしたいと思います。
今回はここまで。それではまた!