前回までの記事で、ピアノを高音質で録音するためのセッティングについて、いろいろな角度からお話をしました。
これまでの記事
ピアノ演奏を高音質で録音したい場合、これまでの記事でお話した通り、様々な事を考慮して録音機材のセッティングをする必要があります。
特にクラシックの演奏をコンクールやオーディションの応募のために録音/録画する場合においては、音声の編集が許可されていないケースが多いと思いますので、このセッティングが非常に重要になります。
後から編集して音声を加工するような場合であっても、適切に機材がセッティングされていれば編集の柔軟性が広がります。
今回からは、これまでの記事も参考にしながら、具体的にどういった機材を使ってどのように録音するといいのかというお話をしたいと思います。
まずは一番手軽に録音できる機材として、お手持ちのスマートフォン、その中でも利用者の多いiPhoneでの録音についてお話をしていきます。
iPhone単体で録音したい場合
いきなり結論になりますが、iPhone単体での録音はおすすめしません。最低限iPhoneと接続できるマイクを利用してください。
それでも、どうしても現在手元にiPhoneしか無く、iPhoneのみで録音しなければいけない状況の場合を想定して説明します。
まず前提として、iPhoneのマイクはかなり優秀です。人の会話を収録する目的であれば非常に優れた性能を持っています。
しかし、楽器の演奏、特にピアノのような幅広い音域とダイナミックレンジを持つ楽器の演奏を収録する事には向いていません。限界があります。
特に低音域・高音域の音質はお世辞にも良いとは言えず、全体的に音がこもった感じになり、細かい音のニュアンスも拾いきれません。
標準のアプリでは録音レベルも調整できず、大きな音は音割れしてしまいます。
したがって、音質は諦めてある程度聞ける音を目指すことになります。
音割れを防ぐためには
何よりも避けなければいけないのは音割れです。
iPhone単体で録音してみて音割れしてしまう場合は、まずピアノの屋根を全開よりも半開、もしくは閉めてしまいましょう。
それでも音が割れてしまう場合は、小さめの音量で弾くかマイクをピアノから離すの2択になると思います。
しかし、控え目の音量で弾くと本来の演奏と比べて抑揚が抑えられてしまい、ダイナミックな演奏になりません。また、マイクをピアノから離す場合、部屋が狭い場合は限界がありますし、離れすぎても音がはっきり聞こえなくなってしまいます。
それでも音が割れてしまうよりはマシです。
アプリを活用する
iPhoneの標準のボイスレコーダーでの録音や、カメラアプリでの撮影では、録音レベルの調整ができません。音質の設定もできません。
何も考えずに標準のカメラアプリで動画撮影をしてしまうと、音質は不可逆圧縮音声であるAACの96kbpsで録音されますので、全体的にモコモコした感じの奥行の無い音になってしまいます。
撮影位置もそれなりに近くなるので音割れのリスクもあります。
演奏の音声だけを録音する場合であれば、iPhoneに最初から入っている無料アプリ「ガレージバンド(GarageBand)」が利用できます。
本来は音楽制作のためのアプリなのですが、演奏をレコーディングする機能があり、録音レベルの調整や音質の設定ができます。
かなり多機能なアプリなので、詳しくない人にとってはとっつきにくいかもしれません。
このアプリでは、コンプレッサーやイコライザー等で音の加工も手軽にできますが、クラシックのピアノ演奏ではあまり加工は好まれません。逆にこれらの設定に気を付けないと音が加工されてしまい、生演奏とはかけ離れた録音になってしまいます。特にコンクール等への提出用として録音する場合は、音声の加工がNGな場合がほとんどですので、気を付けましょう。
その他にもApp Storeで探せば録音レベル・音質を設定できる録音アプリはいくつかありますので、試してみるといいかもしれません。
しかし、やはりiPhone内臓マイクでは音質に期待ができませんので、最低限次で説明するような外付けマイクは用意しましょう。
外付けマイクの選び方
iPhoneで利用できる外付けマイクには様々な種類があって、どれを選んだらいいか、なかなか難しいと思います。
マイクにはそれぞれ得意・不得意なものがあり、人の声を収音するマイクと楽器を収音するマイクでは選び方が変わってきますし、人の声を収音する目的のマイクであっても、会話と歌声ではマイクの選び方は変わってきます。
楽器録音ができるとしているマイクでも、楽器の種類によって選択肢が変わってきます。中でも、特に音域の広いピアノの録音に向いているマイクをいくつか紹介します。
ピアノの音声収録のお話 Part.3【音質編】でもお話した通り、ピアノの録音はステレオの方が適していますので、ステレオマイクに限定して紹介します。
Lightning端子で直接接続する場合
最近のiPhoneはイヤホンマイク用のジャックが無いものが主流ですので、外付けマイクはLightning端子に接続する事になると思います。
Lightning端子で直接接続可能なマイクについては、実はあまり選択肢は多くありません。その中でもよく利用されているマイクをご紹介します。
ここで説明するiPhoneに直付けするタイプのマイクは、比較的安価な事もあり、音質面では単体のコンデンサーマイクと比較すると劣ってしまいますが、内臓マイクと比較すると格段に高音質で録音ができるものになります。
注意点としては、Lightning端子が塞がってしまいますので、充電しながらの録音・録画ができません。録音・録画中のバッテリーの残量には注意しましょう。
ZOOM iQ6
ZOOM iQ6はiPhone/iPod/iPadにLightning端子で接続できるコストパフォーマンスの高いコンデンサーマイクです。
XYステレオ方式の単一指向性マイクですので、ピアノに向かって90度に開いたマイクを向けて、バランスの良い奥行きのあるクリアな音を手軽に収音できます。
ピアノの音声収録のお話 Part.2【マイキング編】でお話したように、良い音で収音できる位置を探し、そこにiPhoneを設置する形となります。
このマイクはマイクの角度を120度に広げる事もできますので、より奥行き感が必要な場合は調整が可能です。
録音レベルはマイクについている丸いダイヤルで調整できます。
また、ZOOMの「Handy Recorder」というアプリを使えば音質の細かい設定もできるようになります。
しかし、マイクの方向がiPhoneの上の方向固定になりますので、iPhoneで動画を撮影する場合にはマイクの方向があまり適切ではありません。そういった場合は次に紹介するZOOMのiQ7の方がおすすめです。
ZOOM iQ7
ZOOM iQ7は上で説明したiQ6と同様、iPhone/iPod/iPadにLightning端子で接続できるコストパフォーマンスの高いコンデンサーマイクです。
iQ6のXY方式に対し、このiQ7はMSステレオマイクとなっており、マイクについているスイッチを切り替える事により音の広がり方を調整できるようになっています。
使い方は基本的にiQ6とあまり変わりませんが、マイクを回転させることにより、iPhoneで動画撮影する場合でも、ピアノにマイクを向けることができます。
手軽に高音質な動画を撮影する場合のおすすめとなりますが、マイクの位置がiPhoneの位置(カメラの角度・場所)に依存してしまうため、マイクの位置にこだわりたい場合は使いにくくなります。
iPhoneを固定する方法
これらのマイクを利用する場合、iPhoneを最適な位置で最適な方向を向けて固定する必要があります。
何か台になるものを使ったり、譜面台を置いてもいいですが、音を反射する面がどうしてもできてしまうので、録音の音質に影響を与えるかもしれません。
また、マイクを水平に置いてしまうと、環境によっては壁に反射する音が音質に悪影響を与えてしまう場合があります。
そこで、スマートフォン用の三脚やマイクスタンド等を用意して、iPhoneを固定するのが最良となります。
三脚選びで注意しなければいけない点は、スマートフォン用アダプター等が付いているかどうかはもちろんですが、グラつかない安定感が非常に重要です。
実はピアノで大きな音を出した時、人間はあまり気にならないかもしれませんが、床がかなり振動しています。
スマートフォン専用の三脚は、探せばものすごく安いものからありますが、そういったものは軽くて安定性に欠けるものが多く、特にiPhoneで動画撮影した場合に、演奏している姿がグラグラ揺れて(ブレて)映ってしまう場合があります。
また、マイクの位置としても、鍵盤よりも少し高い位置から斜め下に向けて撮る方が、画角としてもマイクの方向としても良い感じになりますので、三脚それなりの高さが必要になります。
また、ZOOM iQ6を利用して音声のみ録音する場合と、iPhoneで動画を撮影する場合では、iPhoneの向きが変わりますので、スマートフォン用アダプターを縦横だけでなく水平にも取り付けられ、角度も微調整できる物がいいでしょう。
スマートフォン用アダプターが付いていて、高さがあり、安定感があるものは探せば5,000円以下でもあります。
既に三脚をお持ちであれば、スマートフォン用アダプターのみでも購入可能です。
SHURE MV88+DIG-VIDKIT
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もう少し予算があるのであれば、SHURE MV88+DIG-VIDKITがおすすめです。
ZOOMのiQ6、iQ7は48kHz/16bitまでの音質ですが、こちらは48kHz/24bitでの録音が可能です。
周波数特性も20Hz~20,000Hzと幅広く、ピアノの音域を低音域から高音域までカバーしています。
また、ミニ三脚とホルダーが付属しており、動画撮影でもマイクの向きを調整できますし、Lightningケーブルは別途長めのものを用意すれば、カメラの位置とは異なる場所にマイクを置くこともできます。つまり、撮りたい映像の角度と最適なマイクの位置が異なる場合であっても、柔軟に対応できるようになります。
アプリも専用の「ShurePlus MOTIV」を利用して、細かい音質調整ができるようになります。また、録画の場合は「ShurePlus MOTIV Video」アプリも併用する事により、高音質の動画撮影にも対応しています。
また、Android端末でも利用可能となっています。
Lightning端子をUSBに変換して接続する場合
Lightning端子をUSBに変換すると、選択肢が一気に広がります。
USBマイクを利用したり、オーディオインターフェイスを利用して非常に高音質なマイクを利用する事もできます。
どうせ変換するのであれば、Apple純正のLightning-USB 3 カメラアダプタを利用する事をお勧めします。
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Lightning端子をマイクでふさいでしまうと充電ができなくなるので、どうしても長時間録音・録画の場合にバッテリー残量が心配になります。これを利用する事により、iPhoneを充電しながら外付けマイクを利用して高音質な録音が可能となります。
オーディオインターフェイスとは
オーディオインターフェイスとは、マイク等で収音されたアナログの音声をスマートフォンやパソコン等で使えるデジタル信号に変換して取り込む事ができる機材です。
ここまでで紹介したiPhone向けマイクでも、内臓マイクに比べたら格段に高音質で録音する事はできますが、製品自体が手軽さを求めて作られている為、本格的なコンデンサーマイクと比べると、どうしても音質面で妥協されている部分があります。
本格的なコンデンサーマイクで収音したの高音質な音を、iPhoneで録音する場合には、このオーディオインターフェイスが必須になります。
これ以上は「手軽さ」を考えるとこの記事の趣旨から外れてしまいますので、オーディオインターフェイスや本格的なコンデンサーマイクを利用した録音方法については別記事で紹介します。
この記事で紹介したiPhone用マイクだけでも、内臓マイクと比較すると格段に音が良くなりますので、試してみてはいかがでしょうか。